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山下達郎『CHEER UP! THE SUMMER』リリースインタビュー【前編】

 現在、CX(フジテレビ)系にて放送中のテレビドラマ『営業部長 吉良奈津子』。松島菜々子が演じる、産休を明けで広告代理店に復帰した“新米”営業部長を主人公としたドラマは、家庭と仕事の間で揺れるキャリアウーマンの困難を描いた内容で話題を呼んでいる。


 そんなドラマの主題歌として流れるのが、山下達郎の「CHEER UP! THE SUMMER」だ。フロアタムを多用した力強いビートに、爽やかなシンセサイザーのコードとコーラスが重なる、まさに山下達郎印のサウンドの中にも、ビターな感触を残した一曲。果たして山下はどんなことを考えて同曲の制作に当たったのだろうか? Billboard JAPANでは山下の貴重なオフィシャル・インタビューを入手。前後編に渡ってお届けする。


<山下達郎『CHEER UP! THE SUMMER』リリースインタビュー【前編】>


――『CHEER UP! THE SUMMER』は達郎さんにとって3年ぶりのシングルです。タイトル曲は松島菜々子さん主演のテレビドラマ『営業部長 吉良奈津子』(CX系)の主題歌ですが、タイアップのお話があったのはいつ頃ですか?


山下達郎(以下、山下):ツアー【PERFORMANCE 2015-2016】が終わった頃です。映画は公開の1年ぐらい前に話が来るんだけど、ドラマはいつもわりと急。製作期間もものすごく短いからね。


──松嶋さんが1996年に主演したNHK連続テレビ小説『ひまわり』の主題歌「DREAMING GIRL」も、達郎さんの書下ろしでしたね。


山下:『ひまわり』は松嶋さんの出世作で、あの時の印象が強く残っています。その後、『利家とまつ』や『家政婦のミタ』といった作品で活躍されているのも拝見してきました。ですので、僕なりの松嶋さんのイメージがあって、今回の曲を作るにあたっても、そういったことも少なからず加味したつもりです。


──以前、ドラマや映画の主題歌を書き下ろす際は、物語にできるだけ寄り添うようにしているとおっしゃっていたかと思います。今回はドラマのどのような部分が曲作りに影響しましたか?


山下:産休明けの女性がそれまでのクリエイティブ・セクションから営業に異動になり、子育てとのはさみうちで苦労する物語なんです。なので、最初はもっと孤独感を感じるようなアーバンな雰囲気の曲を書いたんですよ。でも、制作サイドから、“もっと明るい曲にしてほしい”という要望がありましてね。僕は昔から座付き(専属)体質で、タイアップ曲は作品に寄りそってナンボという考え方なので、リクエストに沿って明るめの曲に書き換えましたが、とはいえ今回はあんまり突き抜け過ぎるとドラマに合わない気がしたので。ドラマと解離しないように、ちょっとだけ抑制を効かせました。


──達郎さんが作るタイアップ曲は、作品のイメージにすごく合ってはいつつも、タイアップとしての役割が終わったあとでもまったく色あせないという印象があります。作品に寄り添っているのに、いつでも独り立ちできるというか……。


山下:僕は、作詞・作曲に加え、編曲も自分自身でやっています。編曲は時代にものすごく左右される作業なんですけど、昔から流行におもねることができない人間なので。今回の曲は全部ひとりきりでトラックを作っています。いわゆるひとり多重録音ですが、今、僕みたいなスタイルの音楽でこういうやり方をしている人は、もうほとんどいません。今のトレンドだからといって、自分の中にないスタイルを取り入れることは絶対にしないというポリシーを続けてきたので、今はもうガラパゴスを通り越して、もはや天然記念物ですね(笑)。夏の曲とはいえ、まったく流行とはかけ離れているし、今のトレンドとはまったく異なるセンスの夏でしょうね。


──歌詞はいかがですか。主人公をはじめ、一生懸命生きている人たちを応援するような力強い言葉が並んでいますが、ここにも達郎さんならではのポリシーや流儀があるのでしょうか。


山下:ドラマの主人公は40代。アラフォーやアラフィフになると、いろんな意味で若いころとはまた違った不安が出てきて、単純に人生を礼賛するスタンスはだんだんと失われていきます。今回の歌は、そういう世代への応援歌みたいなものだけど、だからといって、特に大上段なテーマがあるわけではないんですよ。不安を抱えている世代へのチアアップソングを目指しはしましたが、なるべく具体性のない歌詞にしたいと思ったんです。若いころ、特にシュガー・ベイブからソロになった70年代中期、歌詞に必要以上に意味を込めないようにとつとめていた時期があってね。最近、その考えに戻りつつあるんです。


──そう思うのはなぜですか?


山下:歳取ったから(笑)。というのは冗談で、もともと言葉がメロディーに勝っているのが好きじゃないんです。自分の作品だったら、最初期の『Windy Lady』のような、“君はWindy Lady〜”みたいな感じが好きでね。抽象的な言葉が乗ると、音楽もそれにともなって、ある種のイリュージョンが起こる。そういう若いころの思いにもう一度戻りたいなと、ここ1〜2年ずっと考えていまして。今回は非常に洋楽的なメロディーなので、歌詞が具体的になるほど、どうしても違和感が出てしまう。好きな言葉の語感というのが昔からあって、いつもあまり変わらないんです。そこがちょっとでもズレるとすごく気持ちが悪い。なので、歌っていて気持ちのいい言葉を並べたいという。だから本当に抽象的で、何を歌っているというわけではない曲なんですよ。


──物語が特定されないからこそ、聴いた人それぞれが、自分が思い描いた世界をサウンドに馳せることができるという。


山下:久しぶりにリバーブが深いサウンドなので、その効果もあります。「CHEER UP! THE SUMMER」は完全に80年代のリバーブの感じです。昔はよく使っていたやり方なんですけど、2000年代に入ってから、技術的な問題でこういうエコー感がなかなか出せなかった。今は他でもこういうリバーブはなかなかないと思うんだけど、昔の感じを出せるノウハウがようやくついてきたのでね。このリバーブを入れることで、あの頃のサウンドに近付くんです。それがどう受け止められるかはわからないけど、“山下達郎の夏が感じられる曲にしてほしい”というオーダーを受けて今の僕がやるとこういう感じになるっていう。さすがにもう、「RIDE ON TIME」を作った時の27歳ではないですから。27歳の時に作った夏の歌は今でも歌えるけど、同じものはもう作れない。となると、“60代の夏の歌って一体どういうものなんだろう”って思う。そう考えていくと、行き着くところは音のなかのイリュージョンなんですよ。


インタビュー後編へ続く)


◎リリース情報
『CHEER UP! THE SUMMER』
2016/09/14 RELEASE
WPCL-12426 1,000円(tax out.)


<収録曲>
1. CHEER UP! THE SUMMER
2. CAN'T TAKE MY EYES OFF YOU〜君の瞳に恋してる(Live)〜
3. CHEER UP! THE SUMMER(オリジナル・カラオケ)

Billboard JAPAN|Daily News 2016年9月7日 12:10:00 更新

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